2011年10月17日

86.三四郎

夏目漱石(1867〜1916)・著

主人公は、熊本の高校を出て大学へ入るために上京してきた初心な学生。大都会に憧れ広田先生を通して社会に目を開かれる。また、魅惑的な美禰子(みねこ)に心惹かれるが別の男と結婚してしまう。ちょっぴりほろ苦く切ない青春小説。

…その時色彩の感じは悉く消えて、何とも云えぬ或物に出逢った。その或物は汽車の女に「あなたは度胸のない方ですね」と云われた時の感じと何処か似通っている。三四郎は恐ろしくなった。…

なんだか、この主人公は気の弱くタイミングの悪い現代青年の心中を表現しているよう。いや、今を生きる社会人の「自分は何かから常に遅れている。あるいは手遅れになっているんじゃないか」という漠然とした不安をあらわしているようでもある。

その何かとは、たぶん「理想の自分」

どう考えても、「理想の自分」に「現実の自分」は勝ち目がない。文人漱石の苦悩は、今の自分が最高であるという考えを持てなかったというところに発端があるのではなかろうか。

夏目漱石…本名は、金之助(きんのすけ)。生後まもなく里子にだされ、養子先の養父母の老後の目当ての溺愛を受ける。再び実家に戻り母と姉の愛に支えられたがこの二人は五年を開けずにともに死亡、常に本当の愛に飢えていて、虚偽に敏感な心が、この頃から育っていった。

『三四郎』は、『それから』『門』と合わせて前期三部作という呼び方もされる。いづれにしても、漱石は日本を代表する文豪、作家活動はわずか12年だったが私たち現代人の心の生きたテーマにいまも多くの事を語りかけていて、今も古さを感じない。

三四郎 (新潮文庫) [文庫] / 夏目 漱石 (著); 新潮社 (刊)
posted by 岡山太郎 at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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