「殿さまの茶わん」(小川未明童話集 新潮文庫より)…ある日、有名な陶器師のもとに、身分の高い役人がやって来て、殿さまの茶わんを造るようにと命ぜられました。
名誉に感じた店の主人は、この上品で薄手に仕上がった上等な品を殿さまに献上しました。
殿さまは、この日からこの薄手に仕上がった茶わんで、いつも手を焼くような熱さに絶えながら毎日の食事を迎えていました。
あるとき、殿さまが山国を旅行された時に立ち寄った百姓家で出された茶わん、しかし、その茶わんは厚く、けっして手が焼けるようなことがありませんでした。
このことから、御殿にもどった殿さまは、ある日のことその有名な陶器師を御殿にお呼びになりました。この主人は、先に奉じた茶わんの礼をいわれるのかと思いきや、殿さまは静かにこう言われたのです。
「おまえは、陶器を焼く名人であるが、いくら上手に焼いても、しんせつ心がないと、なんの役にもたたない。俺は、おまえの造った茶わんで、毎日苦しい思いをしている」と諭されました。
それから、その有名な陶器師は、厚手の茶わんを造る普通の職人になったということです。
未明は、気短のあっさりした性格だったらしい。
坪田譲治氏の解説によれば、酒もさっと飲み、将棋の勝負も早く、好き嫌いがはっきりしていて、苦労して手に入れた物でも、飽きればすぐ人にあげてしまうといった人となりであったという。
さらに、坪田氏は、童話が日本文学の中で軽んじられているということを感じて、フンガイしており、海外の例を出して、童話というジャンルの地位向上を叫んでいます。
この解説が書かれてからもう55年が過ぎた現在、グリムやアンデルセンと言えば誰も知らない人がいないと思うが、「小川未明」という日本の偉大な童話作家の名前は、日本人みんながみんな知っているとは限らないのではないだろうか。(恥ずかしながら、私もその一人だった。)
童話もレッキとした文学です。児童文学にも、もっと関心を!
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もんのすごく久しぶりに自分のブログを見てみて、書き込んで下ってる方がいたので,ちょっと驚きました。
あぁ〜私にもこんな文学を語る才能があれば!!
宝物物を捜し出す感覚でコツコツと読み進めていきたいと思っています。